北マケドニアの小さな町に暮らす32歳の独身女性、ペトルーニャ。恋人も定職もなく、いまだに実家で暮らす彼女は、ある日、母親の勧めで渋々就職の面接に出向くが、担当者の男性からセクハラに遭った上、あっさり就職を断わられてしまう。その帰り道、彼女は地元の宗教的な伝統儀式に遭遇し、司祭が川に投げ入れた〈幸せの十字架〉をつい手にするが、本来その儀式は女人禁制だったことから、彼女の行動は一大騒動へと発展し……。
以下ネタバレあり
目次
2014年の実話をもとに
監督インタビュー記事より
「2014年、マケドニア東部の町シュティプで女性が十字架を掴み取りましたが、彼女は地元の住民と宗教関係者たちの怒りを買いました。
~中略~
それは我々の社会の中に深く根付く男性に支配された社会通念に裏打ちされた女性蔑視も露わにしました。苛立たしく、腹立たしいものでした。ペトルーニャのストーリーはこの苛立ちから生まれました。我々は行動を起こすべきだと思ったのです。」
映画は、ニュース映像にそって作られている。
女性の仕草も真似ていた。
この女性は、翌日のインタビューで、女性への参加を呼び掛けていたというが、町内でかなりのバッシングにあったようだ。
現在、女性は町を出てロンドンで暮らしているという。
日本でも”女人禁制”というものがいくつも思い浮かぶ。
少しずつでも、解禁されていくのだろうか?
それとも、逆に守られていくのだろうか?
ベルリン国際映画祭
第69回ベルリン国際映画祭で、エキュメニカル審査員賞とギルド映画賞を受賞。
他にも数々の映画賞を受賞(ノミネート)している。
ロケ地 シュティプ周辺
主な撮影地は、実話と同じく、マケドニア共和国東部地方の都市“シュティプ”。
ペトルーニャ自宅近辺:Tri Cheshmi(北マケドニア)
ネタバレあらすじ
主人公:ペトルーニャ
職業 :ウエイトレス
大学で歴史を学ぶが、その知識を生かす仕事に就くことができず、地元でウエイトレスの仕事を続ける。
最悪の面接
母に言われ、裁縫工場へ仕事の面接に行ったペトルーニャ。
面接担当の男性の責任者から、セクハラをされ、馬鹿にされたのち帰される。
伝統ある宗教儀式
面接の帰り道、ペトルーニャは、毎年開催される「神現祭」の会場を通りかかる。
司祭が川に十字架 を投げ込み、それを最初に見つけた男性は、1年間幸福に過ごせるという。
川沿いで祭りの様子を見ていたペトルーニャは、その十字架が目の前に流れてきたのを見つけ、川に飛び込み、手に取り、大喜びする。
しかし、すぐに男性らに十字架を奪われてしまい、「私が最初に取った!」とアピール。
前代未聞の事態に司祭も困り果てるが、混乱の中、ペトルーニャは 十字架を奪い帰宅してしまう。
警察に連行
帰宅したペトルーニャは、家族には何も言わず、自分の部屋で十字架を胸に抱えていた。
その後、ニュースで事の次第を知った母親から怒られるが、ペトルーニャは十字架は自分のものだと母親に抵抗する。
しばらくすると、警察が来て、ペトルーニャは連行されてしまう。
周囲の圧力
ペトルーニャが警察に連行されるも、司祭も警察側もペトルーニャの対応を決めあぐね話し合いが続き、彼女は待合室で待たされていた。
一方、祭に参加した男性らが、ペトルーニャの十字架を奪おうと警察前に詰め寄り危険な状態に。
レポーターのスラビツァは、上からの命令を無視し、独断で取材を続けていた。
ペトルーニャは、警察からも脅迫され、群衆からも「アバズレ」等と罵られ、水をかけられ、暴力を受けるが、彼女は決して十字架を離さず、じっと耐えていた。
擁護する人々
若い警察官ダルコは、必死で十字架を守るペトルーニャの様子を見て、上着を貸し、ペトルーニャの勇気を称える。
レポーターのスラビツァも、ペトルーニャのために独断で取材を続けていた。
「女性が十字架を取ることが、何故問題なのかわからない。」とインタビューに答える男性もあらわれる。
釈放
検事が警察署に到着したのち、ようやくペトルーニャは釈放される。
上着を返そうとしたペトルーニャに、警察官のダルコは「連絡するよ」と一言。
ペトルーニャの表情がパッと明るくなり、笑みがこぼれる。
十字架とともに釈放されたペトルーニャだったが、警察署の前で「幸運を」と見送る司祭に、彼女はあれだけ守り続けていた十字架を返す。
驚く司祭に「貴方や、彼らには必要だから。」と言い、笑顔で司祭と別れる。
~おわり~
ラストで、雪道を歩くペトルーニャ。
彼女にはもう幸運の十字架は必要なかった。
そんな彼女を見守る鹿。
鹿は、ヨーロッパでも神聖な動物で、縁起が良い動物とされている。
彼女の幸せな未来を予感させるエンディングになっている。
久々に映画の中に入り込むように夢中で観た作品だった。
映画はこうでなくちゃ。