映画とドラマとロケ地

映画や海外ドラマの撮影地の紹介+レビュー

燃ゆる女の肖像 Portrait de la jeune fille en feu (2019)

燃ゆる女の肖像(字幕版)

Youtubeギャガ公式チャンネルより抜粋

画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋におちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた──。

以下ネタバレあり

 

画家 Hélène Delmaire

主人公の画家・マリアンヌの描いた作品は、全てHélène Delmaireさんの作品。
絵そのものについて酷評しているネット記事を見かけたが、映画の絵もinstagramの作品も素晴らしいと思う。

Fugere Non Possum

ブルターニュの孤島に住む女性だけの祭の集まりのシーンで、歌われるこの歌。
監督のセリーヌ・シアマは、18世紀の曲を沢山聴き、トランス状態になっていくような歌にしたいと考え、自分で歌詞を書いたと語っている。ニーチェの言葉を引用し、ラテン語で「彼らが飛んでくる」という意味で”Fugere non possum”という歌にしたと語っている。
楽器は使わず、早いテンポで手拍子を使い、ポリフォニーな歌を作ったという。
魔女の集まりのような印象もあり、最後にエロイーズのドレスの裾に火がつくという、幻想的なシーンとして、この映画で1,2を争う素晴らしいシーンになっている。

 

アデル・エネルのエロイーズ役

監督のセリーヌ・シアマとエロイーズ役のアデル・エネルは、元恋人同士。
映画は、エロイーズ役をアデル・エネルが演じる前提で製作されたという。
2人は、映画の撮影前に別れている。


ロケ地 エロイーズの邸宅(城)

Château de La Chapelle-Gauthier

映画では、ブルターニュの海岸沿いにあるという設定だが、実際は、パリから1時間ほどの海から離れた場所にある17世紀に建てられた城で撮影された。
映画のヒットにより、撮影に使われた部屋を一般公開されることになったようだ。

 

第72回カンヌ国際映画祭

第72回カンヌ国際映画祭では、脚本賞クィア・パルムの2冠に輝く。
他にも多くの映画祭で、多数受賞(ノミネート)している。

 

映画「ピアノ・レッスン

冒頭の船のシーンで、映画「ピアノ・レッスン」を思い出した方は多いと思う。大好きなこの作品を彷彿とさせるオープニングに、夢中になりそうな予感がし、ドキドキしながら観始めた。冒頭で、グッと映画の中に引きこまれていく作品はなかなか無い。
これから心揺れ動く出来事が、主人公の身に起こることを予感させ、観ている側にも不安な気持ちが伝わってくる。

 

ネタバレ

見どころ3点
・18世紀のフランスの女性の地位
・女性同士の絆
オルフェウスの冥府下り
・お互いの視線

18世紀のフランスが舞台となっている作品のため、まだ女性の地位は当然低く、主人公の画家マリアンヌは、自分の名前では展覧会に出品出来ないため、父親の名で出品をしていた。伯爵令嬢のエロイーズは、イタリア(ミラノ)の貴族に嫁ぐ予定の姉が自殺をし、姉のかわりに急遽嫁ぐことになり、修道院から連れてこられていた。
2人とも女性として生まれた運命に逆らえずにいるが、心の中ではお互いへの愛が永遠に燃え続けていることがわかる。

登場人物の女性達の地位で考えると、①伯爵夫人のエロイーズの母、②伯爵令嬢のエロイーズ、③伯爵家に雇われた画家マリアンヌ、④女中のソフィ、という順番になるのだろうが、エロイーズの母が出かけてからは、エロイーズとマリアンヌとソフィの3人がそれぞれの立場はある中で、平等に愛や友情をはぐくんでいく様子がとても良かった。
明らかに一番年下なソフィが、望まない妊娠をし、エロイーズとマリアンヌは、中絶する彼女に付き添ってほしいと言われ、見守ることになる。
中絶するのは、密かに中絶を請け負っているらしき中年女性。男尊女卑の時代、孤島に住む女性達が、お互い支えあって生きている様子が描かれていた。

映画の中で、オルフェウスの冥府下りの話が登場し、冥界からあと少しで抜け出すというところで何故オルフェイスが振り向いてしまったのか?と語り合うシーンがあった。
エロイーズは「愛ゆえ」と考え、マリアンヌはオルフェウスが「詩人ゆえ」と考えていた。マリアンヌは、画家としてエロイーズの肖像画を完成させなければならず、しかし、完成は別れを意味する。
肖像画が完成させたマリアンヌは、思いを断ち切るように屋敷を出ようとする。扉に手をかけたマリアンヌにエロイーズが「ふりかえって」と呼びかける。
オルフェウスのように、振り返ったマリアンヌ。
このシーンで、まず1回泣かされてしまう。

そして、2回目に涙するシーンは、ラスト。
画家としてエロイーズを見つめるマリアンヌ、そんなマリアンヌをエロイーズも見つめていた。2人は愛し合いながらも、別れを避けることは出来ない。エロイーズとの別れの前に、マリアンヌは彼女のスケッチをし、エロイーズも絵を描いてほしいと愛読書の28ページの余白にマリアンヌの絵を描いてもらう。
お互いの姿を目に焼き付け、お互いのスケッチを愛の記憶として保管し、別れることになる。
ラストのマリアンヌの回想シーン。マリアンヌは、その後2度、エロイーズと再会したと語る。1度目は、結婚し子供と共に描かれた肖像画のエロイーズと。絵の中の彼女は、まっすぐこちらを見つめ、愛読書の28ページに指を挟んでいた。エロイーズは、肖像画のモデルをしながらも、視線の先にマリアンヌを見つめていたのだろう。
そして、2回目の再会のシーン。コンサートホールで遠くに座るエロイーズを見つめている。ヴィヴァルディの『四季』の『夏』を聴いて、エロイーズは号泣する。それは、マリアンヌがお屋敷にあったハープシコードで彼女に弾いてあげた曲だった。
エロイーズが、今でもマリアンヌを深く愛していることが伝わってくる。
このシーンで、マリアンヌはエロイーズと視線は合わなかったと語っていたが、生涯お互いの視線が合わなくとも、瞳の先にいつも相手を思い浮かべているのだろうと想像させられた。涙涙のエンディングでした。