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帰れない山 Le otto montagne (2022)

帰れない山 [DVD]

WOWOWより抜粋

1984年夏。都会育ちの11歳の繊細な少年ピエトロは、山を愛する両親とアルプス山麓の村で休暇を過ごす中、野性味あふれる牛飼いの少年ブルーノと出会う。同い年だが性格も生活スタイルも対照的な2人は、大自然の中で仲良く時を過ごし、かけがえのない友情を結ぶ。その後、15年間お互いにご無沙汰の状態が続いた後、父親死去の悲報を聞かされ、村に久々に戻ったピエトロは、ブルーノと再会を果たし、旧交を温めることに。

以下ネタバレ注意

 

原作

帰れない山 (Shinchosha CREST BOOKS)

原作は、パオロ・コニェッティの2017年の同名小説。
世界39言語に翻訳され、イタリア文学界最高峰のストレーガ賞および同賞ヤング部門をはじめ、フランスのメディシス賞外国小説部門など数々の文学賞を受賞した作品。

映画の公式サイトや原作出版社からの情報によると、作者は(2022年2月現在)1年の半分をアルプス山麓で、残りをミラノで過ごしながら執筆活動に専念する、と書かれている。作家に関する情報は、上記のイタリア語のWikipediaが詳細。

作者インタビュー映像。山での様子等が映されています。

 

ロケ地

山間にある集落

グライネス Graines
映画冒頭、幼少期に過ごした山間の村として登場。
意外にも村の状況がGoogleマップストリートビューで確認出来た。

山小屋

Mereindoux
ブルーノが叔父と過ごした山小屋がある場所。印がある山小屋かは不明。
ロケ地は、個人所有の山小屋の廃墟を制作側が改築したという。

 

氷河のシーン

Colle di Felik
父と行った氷河のシーン。

湖のシーン

フルディエレ湖 Lago di Frudiere

成長した2人が再会したバー

(閉業)Bar Restaurant La Boule
成長した2人が、久々に再会したバー。

須弥山(しゅみせん)

イタリア語のタイトル”Le otto montagne”を直訳すると”八つの山”
古代インド・仏教の世界観で、世界の中心にそびえる須弥山を囲むように八つの山があり、その間に八つの海が存在しているというもの。須弥山を囲む鉄囲山と七つの金山と八つの海を総じて”九山八海”(くせんはっかい)と呼ばれている。

 

ねたばれあらすじ

1984年夏
トリノ出身の11歳のピエトロは、教師である母のフランチェスカと山間にある小さな村グラーナに滞在していた。父のジョヴァンニは、大企業で働くエンジニア。
ジョヴァンニは登山が趣味で、息子ピエトロと一緒に登山を楽しむため、グラーナ村に別荘を借りていた。
ピエトロは、村に住む同い年のブルーノと出会い、親しくなっていく。
ブルーノは母を亡くし、父親は出稼ぎで留守のため、叔父夫婦の酪農の手伝いをしていた。
ある時、ジョヴァンニはピエトロとブルーノを連れ、氷河へのトレッキングに行く計画を立てる。ブルーノの叔父にも許可を得て、3人で出発するが、途中ピエトロが高山病になり、トレッキングを断念することに。

ブルーノとの別れ
夏の終わり、ブルーノが十分に教育を受けていないことを知ったピエトロの両親は、冬の間、ブルーノをトリノの家に預かり学校に通わせたいと彼の叔父夫婦に提案する。
ところが、ブルーノのトリノ行きを反対した父親が、自分の出稼ぎ先にブルーノを連れて行ってしまう。ブルーノはその後、石工職人として働き始める。
5年後、久々にブルーノと店で偶然再会するが、2人は軽く挨拶しあうだけで、言葉を交わすことはなかった。その後、ピエトロは別荘へ行くことも、父との登山も拒絶する。

父の死
それから15年後、31歳になりレストランで働いていたピエトロのもとに、父の訃報が届く。実家へ戻った後、グラーナ村の別荘へ行ったピエトロは、久々にブルーノと再会する。
ブルーノに連れられ、ピエトロは山の上のある場所へ連れていかれる。
バルマ・ドローラと名付けられたその場所は、生前父ジョヴァンニが購入した場所で、ブルーノは父ジョバンニと、山小屋の再建を約束したと説明。ブルーノはピエトロに山小屋作りを手伝ってほしいと言い、ブルーノの指導のもと2人で山小屋を建てていく。その後、ブルーノが飲んだくれの父親と絶縁したことや、息子と疎遠になった父ジョヴァンニが、ブルーノと山で一緒に過ごしていたことを知る。

山小屋完成
夏の間に山小屋が完成する。ブルーノは、山小屋はピエトロへの贈り物だと話すが、ピエトロは2人の家だと答える。
ブルーノは、叔父が遺した牧場を引き継ぎ、山の民として生きていくことを決めるが、ピエトロはまだ将来が見えていなかった。
翌年の夏、ピエトロはトリノの友人らを山小屋に招き、ブルーノを紹介する。
山小屋で、ピエトロはラーラという女性と関係を持つ。

ブルーノとラーラ
その後、ピエトロは放浪の旅に出て、ネパールの山の民の暮らしに感銘を受け、その場所に落ち着くことに。著書出版も決まり、作家デビューを果たす。
ある日、ブルーノから連絡が入り、ラーラが自分の牧場で働きたいと言っているが、ピエトロとラーラの関係が気がかりだと告げられる。
ピエトロは、ラーラは単なる友人だと説明。
ラーラは、ブルーノの牧場に住み込みで働き始め、やがてブルーノとの間に子供が産まれる。
ブルーノとラーラは牧場の仕事に日々追われ、山小屋の手入れはたまに立ち寄るピエトロに任されることに。

八つの山
ある日、ブルーノとラーラは、ピエトロと母フランチェスカを食事に招く。
フランチェスカは、牧場の仕事で忙しい2人の娘アニータを預かり、2人はフランチェスカに感謝していた。
ピエトロがネパールで知った鳥葬について話すと、ラーラはゾッとするが、ブルーノは鳥葬が気に入ったと答える。
夕食後、ピエトロはブルーノと酒を酌み交わしながら、ネパールで知った「八つの山」の話をする。この世界は、八つの山と八つの海、そして中央に世界一高い須弥山(しゅみせん)があるという古代インドの世界観について話す。八つの山(と海)全てを制覇したものと、須弥山に登った者のどちらが一番の知識を得たものなのかとブルーノに問う。2人は、ピエトロが八つの山を登った人物で、ブルーノが須弥山に登った人物と考えていた。

牧場の経営難
その後、ピエトロはブルーノの牧場が経営難で、多額の借金があることを知る。
作家として軌道に乗ったピエトロが援助を申し出るも、ブルーノから拒絶されてしまう。
ネパールへ戻ったピエトロは、現地で教師をしているアズミという女性と付き合い始める。
ある日、ブルーノから電話が入り、牧場が差し押さえられ、ラーラが娘を連れて実家に帰ったことを知らされる。ブルーノは1人になりたいと言い、山小屋を使っていいかピエトロに尋ねる。ピエトロは、2人の家だと快諾する。

冬の山小屋
ブルーノが暮らす冬の山小屋を訪れたピエトロ。
雪に閉ざされた山小屋で一人きりで暮らすブルーノを見たピエトロは、ラーラと娘との生活を取り戻すよう説得し、ついブルーノの父親のように子供を捨ててはいけないと言ってしまう。その言葉に激昂したブルーノは、極寒の中、ピエトロを山小屋から追い出す。
翌朝山を下りたピエトロはラーラに会いに行く。ブルーノを助けたいと話すピエトロに、ラーラは、ブルーノは助かりたいと思っておらず、家族よりも山が大事なのだと返され、何も言えなくなってしまう。
ピエトロは再度山小屋へ行き、2人は仲直りする。ピエトロは、ブルーノを心配するも、ブルーノは「山は自分を傷つけない」と答え、ピエトロを見送る。

ブルーノの死
大寒波で大雪が降った後、ブルーノを心配した彼の従兄弟が救助を要請。
救助隊のヘリコプターが山小屋へ向かい、雪に埋もれた山小屋の屋根を開けたが、山小屋には彼の姿はなかった。
ラーラはピエトロに電話し、春になって雪が解けたら遺体が発見されるだろうと涙する。「これがブルーノが望んだことなの?」とラーラに問われ否定したが、ピエトロの本心ではなかった。

ラスト
雪が解け始めた頃、カラスが何かを盛んについばむ様子が映る。
ピエトロは、ネパールでアズミと共に子供達に囲まれて過ごしていた。
「人生にはときに帰れない山がある。
他の峰々の中央にそびえたつ山に帰ることは出来ないのだ。
いちばん高い最初の山で友を亡くした者は、8つの山を永遠にさまよい続ける。」
~おわり~



 

ひとこと

観終えた後、余韻が残る素晴らしい作品だった。
原作は、より個々の登場人物が細かく描かれていると知り、書籍を購入した。

全く予備知識無くWOWOWで観始めたため、映画冒頭は「アルプスの少女ハイジ」なほのぼの展開を予想。ハイジもピーターも冬の間は町に降りて学校に通っていたな、などと考えていると、ピーターだと思っていたブルーノといきなりの別れに。
そして5年後、2人とも超絶イケメンに成長。坊ちゃんな爽やかイケメンのピエトロに対し、ワイルドなブルーワーカーなイケメン、ブルーノが登場。
しかし、彼らのシーンはさらに短く、一瞬の目の保養だった。(残念!)
次のシーンではさらに歳を重ね、ハイジの”アルムおんじ”のような風貌に。

最後は悲しいラストを迎えるが、ブルーノの選んだ死に様だったのだろう。
誰にも頼らず愛する山で死を迎え、亡骸は山の栄養となり、山に還る。
今後、ピエトロはあの村に戻ることはあるのだろうか。