第2次世界大戦中のトルコ。
アルメニア人虐殺により、両親と弟を亡くしたイリアスは、過酷な環境の下で成長し、情報収集能力を活かし、戦争中スパイ活動をしていた。
イリアスは、ドイツ大使館のモイズイッシュの秘書コルネリアと交際するようになるが、コルネリアには障害者である1人息子がいた。
障害者をガス室送りにする“T4作戦”を知ったコルネリアは、ショックを受け、職場で息子の存在をひた隠しにするが…。
以下ネタバレあり
【映画】「五本の指」“5 Fingers”
1952年製作のスパイ映画「五本の指」(Five Fingers)
Ludwig Carl Moyzisch「キケロ作戦」が原作の作品。
「わが名はキケロ」でのモイズッシュの設定は映画用に脚色されている。
作者のモイズッシュは、トルコのアンカラにあるナチス・ドイツ大使館の外交官(武官?)だったが、第二次世界大戦後に戦争犯罪で起訴されることなく出身地のオーストリアに戻り、「キケロ作戦」を書いたのち、実業家になったとされている。
(「五本の指」あらすじ)
アンカラ駐在のイギリス大使の執事をしているアルバニア人のバズナは、機密書類を盗み撮りし、かつての雇い主である伯爵未亡人に協力を仰ぎ、ドイツ大使館武官モイズッシュに情報を売り始める。
しかし、イギリス側も情報漏れを察知し、捜査がはじまる。
バズナは、ノルマンディ上陸作戦に関する情報を売り、伯爵未亡人と南米に高飛びしようと計画する…。
原作の内容は知らないので、何とも言えないが、この「わが名はキケロ」では、「五本の指」とは設定を変え、ナチスのT4作戦(精神障害者や身体障害者をガス室で安楽死させること)も絡めて描かれている。
途中、T4作戦は中止されるが、結果、T4作戦の職員たちが各収容所に配置されていき、ホロコーストで利用されていったと言われている。
ガス室のシーンは、映画とはいえ、かなりショックを受けた。
【ストーリー】ラストネタバレあり
主人公:イリアス・バズナ
1904年オスマン帝国の領土コソボのプリシュティナにて、アルバニア人の両親のもとに生まれる。
アルメニア人虐殺により、両親と弟を亡くしたイリアスは、過酷な環境の下で成長し、情報収集能力を活かし、戦争中スパイ活動を始める。
第一次世界大戦初期、ユーゴスラヴィア大使の召使等を経て、トルコ駐在のイギリス大使ヒュー・ナッチブル・ヒューゼンの執事に。
大使が、大使館から機密文書を持ち帰ることを知り、機密文書をカメラで撮影、ドイツ大使館のモイズイッシュに接触し、ネガを売り始め、彼は“キケロ”というコードネームで呼ばれるようになる。
ある日、モイズイッシュの秘書であるコルネリア・カップと(故意に)出会い、恋に落ちてしまう。
コルネリアは、上司であるモイズイッシュに一人息子の存在をひた隠しにしていたが、ある日、障害がある息子がいることを知られてしまう。
優生学思想によるナチスのT4作戦により、障害者が安楽死させられ、モイズイッシュは、息子の命と引き換えに、コルネリアに肉体関係を迫ってくる。
コルネリアは、息子を守るために、モイズイッシュが持つキケロの機密書類らを撮影し、イギリス側へ渡すが、パスポートと引き換えにキケロを捕まえるようイギリス大使館員のウェリントンから命じられる。
キケロがモイズイッシュと接触する情報を得たコルネリアは、夜中に待ち伏せをするが、そこでイリアス=キケロだと知ってしまう。
コルネリアは、キケロの顔は見ていないと言い、イギリス側からの援助を失ってしまう。
その上、コルネリアがイギリス大使館に電話をした形跡があるとモイズイッシュに知られ、イリアスとの関係も知られてしまう。
コルネリアは、ウェリントンにつけられていることを知らずに、イリアスのもとへ。
ウェリントンも現れ、イリアスと挌闘中、銃を手にしたコルネリアは、ウェリントンを撃ち、イリアスと逃げることを決める。
すぐに、コルネリアの家へ向かうが、そこには既にモイズイッシュが。
乳母は殺され、コルネリア達を助けたければ、情報を持ってくるようイリアスに命じる。
イリアスは、イギリス大使の邸宅から機密情報をカメラで撮影し、情報と引き換えに、コルネリアを解放させる。
2人は、息子が送られたブルガリアの収容所へ向かい、ギリギリのところでガス室から救出する。
帰り道、イリアスが受け取っていたドイツ側からの報酬のポンドは、ベルンハルト作戦で作られたナチスの偽札のポンドだとコルネリアに説明し、車から街中に投げ捨てていく。
イリアスはコルネリアに、ドイツに偽情報を流したことを話す。
コルネリアが、「(イリアスは)いったい何者なの?」と聞いたシーンの後、
『1人のトルコ人が ドイツに呪いをかけ 戦争の結末を変えた』
というメッセージが表示される。
月日はさかのぼり…1938年5月。
イリアスは、ある男性に呼ばれ、ヒトラーに対する諜報組織を作り、生まれたばかりのトルコ共和国の参戦を阻むよう命じられる。
今までちらちらと登場していた、イリアスの仲間たちが裏で何をしてきたのかが紹介されていく。
イリアスは、1人で情報収集していたわけではなく、トルコの諜報組織の一員として用意周到に活動が行われていたことを、観客は知らされていく。
『バズナは、情報提供のタイミングを選ぶことで、戦局を巧みに操ったのだ』
~おわり~
トルコ共和国 初代大統領
最後に登場し、イリアスに諜報活動を命令した人物は、特に説明はなかったが、トルコ共和国の元帥で初代大統領のムスタファ・ケマル・アタテュルクだろう。
顔がそっくりだった。
ウィキペディアで使われている画像は、映画の中の男性に特に似ている。
映画では、主人公のイリアス・バズナが英雄としてかっこよく描かれているが、ウィキペディア等では、少し違う印象。
特に、日本語版のウィキペディアを読むと、イメージがだいぶ違ってくる。
イギリス大使のその後
映画はとても楽しめたのだが、ひとつ気になっていたことがあり、ネットで検索をしたのが、イリアスらに情報を盗まれ続けていたイギリス大使Hughe Knatchbull-Hugessenのその後。
出世街道からはずれていったのかも…と心配していたが、実はその後もベルギーやルクセンブルグの大使も歴任し、61歳になる年の1947年に引退、85歳でお亡くなりになられた知り、ほっとしました。